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管理人さん 工事は数日後に行われた． トイレ窓のレバーは，古いものを電動カッターで切断し，その脇に新しいものを取り付けるという工事だった． 金属芯むきだしのまま工事が完了した． 工事跡にペンキを塗ってもらえる，などというサービスは，公務員住宅では期待できない．  工事終了後，管理人氏が様子を見に来た． 別に自分が入居する部屋でもなければ，自分で建てて大家になったアパートでもないわけだが，管理人氏は工事の跡を手でなでたりしながら大事そうに確認していた． 最後に入居者が完了確認書に捺印をしておしまいだという． 朱肉がなかったのでサインでいいだろうかと尋ねたところ，捺印でなければならないという規則だからだめだという． 規則と言われてしまえばしょうがない． 僕はハンコの表面にわずかに残った前回の朱肉を無理矢理使って，確認書に捺印した． 朱肉の濃さが薄かったことが気になる，と言いつつ，管理人氏は去って行った． さて，規則に忠実な管理人氏，笑顔を見せたことは一度も無かったが，何か質問したときとかお願いしたときとかに嫌な顔をしたこともなかった． 内心，東京からうるさい奴が来た，と思っただろうが(僕だったら思う)，毎回誠実に対応してくれた． 残念なことに彼はすでにこの世にはいない． ある日，心臓の病で急に亡くなったという． 僕が退出した日，彼の後任でやってきていた管理人氏からきいた話である． 厄介なお願いに対して常に真剣に対応してくださった彼に，僕はここで再び感謝したい． |