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客猫 うちに遊びにくる近所の猫ども 改訂1998年7月31日 独身の頃，僕は 2 階建てアパートの 1 階角部屋に暮らしていた．南を向いたこの部屋の窓の外には，ベランダと呼ぶにはちょっとお粗末なコンクリートの台座があった．どうやらここが近所の猫どもの“猫道”になっていたらしい． この部屋に暮らしはじめてから何年か過ぎた頃，夜中になると“ちりんちりん”という鈴の音が聞こえてくることがあるのに気づいた．どこかの猫がコンクリートのベランダの上を通って行くらしい．一瞬だけ聞こえる鈴の音なので，どんな猫が通って行くのか僕にはまったくわからなかった． ある夏の昼，ブラインドを上げたままにしていた僕は，窓の外から“ちりんちりん”が聞こえてきたのに気がついた．急いで外に目をやると，黒い猫が部屋の中をのぞき込んでいた．どうやらこいつが毎晩部屋の前を通って夜中の散歩に出かけていたらしい．  とても人間になついた猫で，僕がそっと近づいても逃げなかった．首をなでてやると実に気持ちよさそうにコンクリートの上で転がりはじめた．“ちりんちりん”という鈴の音がひびいた． この猫は規則正しい夜の生活を送っていたらしい．毎晩夜の 9 時になると現れ，目の前の駐車場を横切ってどこかに消えて行く．そして再び同じ道を戻って早朝 3 時にベランダの前を通過して行く．僕が起きていればちょっと道草をくって行く．部屋の明かりが消えていれば留守だと思ってそのまま通り過ぎて行くが，そうでないときには“にゃお”と一回だけ鳴いて，僕が出てくるのを待つ．そういう夜がしばらく続いた． 黒猫はときどき昼にも姿を見せていたのかもしれない．平日にはどうだったかわからないが，休日の昼下がりに突然現れたことがある．そのときに写真を撮ってやった． 黒猫が僕の部屋で道草を食うようになってからしばらくして，今度は白猫もやって来るようになった．黒猫と同じ首輪をしており，やはり人間にとてもよくなついていた．
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